肺がん検診

肺がん検診

日本におけるがん検診は、市町村の住民検診に代表される対策型検診と人間ドックなどの任意型検診があります。対策型検診は、健康増進法によって行われ、がん死亡率の減少を目的としているため、有効性の確立した検査方法が選択されます。一方、任意型検診では、医療機関が任意に提供するサービスのため、有効性の確立していない検査方法が含まれることもあります。しかし、個人の目的や好みに合わせて検診を選択できるという利点もあります。

対策型検診としての肺がん検診

現在、日本で対策型検診として行われている肺がん検診は、50歳以上で喫煙指数600以上の男女(高危険群:重喫煙者)には胸部X線検査と喀痰細胞診併用による検診を毎年、高危険群を除いた40歳以上の男女(非高危険群)には胸部X線検査による検診を毎年行っています。
我が国の肺がん検診は、我が国で1990年代に行われた4件の症例対照研究において、肺がん死亡率減少効果が認められ、有効性が確認されています。
欧米では1970年代に2件のランダム化比較試験によって肺がん検診の有効性評価を検討した結果、肺がん死亡減少効果は認められませんでした。研究手法としては、症例対照研究に比べてランダム化比較試験の方が信頼性が高いとされていますが、これら欧米の2件の研究実施時期がとても古く、現在の医療水準とは相当に異なっている事、ランダム化で非検診群に割付けられた人の中に相当数が検診を受けていたり、反対に検診群の人でも検診を受けていなかったりしていることが知られています。また、2000年代に入ってからもランダム化比較試験が1件行われましたが、検診期間が3~4年と短い割にその後の観察期間が10~11年間と長いため、途中で開きかけた両群の死亡率の差がまた縮まったなどの問題点が指摘されています。
これらのことから、日本では、我が国からの報告を重視することが妥当と判断され、対策型検診として現行の肺がん検診を実施することが推奨されています。

胸部CT検診とは

胸部CT検査は、胸部X線検査に比較して小さな肺病変の検出率が高いことが知られていましたが、放射線被曝等の観点から検診手法としては問題があると考えられていました。その後、被曝量を軽減した「低線量」胸部CT検査という手法が開発された事で検診に利用可能な状況になり、欧米や我が国において任意型検診として普及してきました。しかしながら、対策型検診として導入するためには、肺がん死亡減少効果を証明する必要があります。
アメリカで実施されたNational Lung Screening Trial (NLST)では、高喫煙者約53,000人を一方に低線量胸部CT検診を、他方に胸部X線検診を実施するランダム化比較試験を実施し、低線量胸部CT検診によって肺がん死亡率を20%減少できることを示しました。ヨーロッパでもいくつかの同様のランダム化比較試験が重喫煙者を対象に行われましたが、研究参加人数が数千人と少ないことが影響してか、肺がん死亡率減少は示されませんでした。2020年にヨーロッパから重喫煙者を対象としたDutch-Belgian lung cancer screening trial (NELSON)という、研究参加者15,000人強のランダム化比較試験の結果が報告され、有効性を示す結果でした。このように、重喫煙者に対する低線量胸部CT検診の有効性は徐々に証明されつつある状況となってきました。
一方、非喫煙者、軽喫煙者に対する低線量胸部CT検診の有効性の研究はまだ不十分です。それを検討するランダム化比較試験も、現状では本研究であるJECS Study以外、世界に存在しません。JECS Studyでは参加人数を27,000人と見積もっており、参加者数不足が原因で結果が未確定となる事態を回避するように努力しています。このような点から本研究は、我が国のみならず世界的に注目されているランダム化比較試験であると共に、有効性が証明された場合には我が国における対策型検診としての低線量胸部CT検診導入へつながるものと考えられています。